ひさびさにステキな鉄道本に出会えたのでご紹介。黒田一樹さんの著書「すごいぞ!私鉄王国・関西」です。
他の鉄道本とは一線を画す内容
僕は鉄道は好きですが、実はあまり鉄道本を買いません。時刻表や雑誌などはダイヤ改正時や内容によっては買うこともありますが、単行本はほとんど買ったことがありません(昔、カラーブックスを買ってたくらい)。
この「すごいぞ!私鉄王国・関西」は全編カラー構成。
ともすれば関西私鉄キング阪急がもてはやされがちなところ、関西拠点の5私鉄全てに愛ある文章が続くんですね。
阪急は創業者、南海はバロック(!?)、阪神はスピード、近鉄はエキゾシチズム、京阪は名工。
(著者ご本人曰く紹介順にもこだわったとのこと)
阪急以外は「?」と思いがちですが、これが読んでいくうちに全部その通りだとわかってきます。
その裏付けともなる取材は全てご自身によるもの。自分で取材なんて当たり前なんでしょうけど、5私鉄全部ってなるとなかなかのもの。
最近読んだムック本などでは過去の写真を貼り間違えてたり、内容が間違ってたりするものがあって、がっかりすることが多いんですよね。
そんな中、この本はご自身の総力取材、かつ愛のある内容で一気に読んでしまいました。しかも、あとがきには衝撃の内容が…。
関西私鉄のことを書いてらっしゃるから黒田さんは関西の方なのかな?と思ってましたら、なんと北海道の御出身で、現在は東京が拠点で本業は経営コンサルタント。。なんなんだこの人…(笑)。
ということで2016年7月10日に行われた(もう3か月も前…)トークショー&サイン会へ行ってきました。
怒涛の鉄道マニア度チェック
トークショー&サイン会は鉄道本の聖地「旭屋書店なんばCITY店」のイベントスペースで行われました。
(「多分書店のイベント来たの初めて。」とつぶやいていますが違います…苦笑)
開始の14時前には十数名ほどいらっしゃってたようで、14時少し過ぎてから黒田さんご登場。
まずご自身の自己紹介。本業は中小企業診断士であくまで鉄道は趣味だと(笑)。ただ、鉄道のイベント(京阪京津線80形を保存!!)、グッズの製作も行ってらっしゃるとのこと。
黒田さんの鉄道遍歴を含めた自己紹介の後、今日来ている人達は5私鉄どの沿線なのか?どこファンなのか?を質問。
やはり難波だからか南海が多いよう(一番前に座ってたからちゃんとは見てない)。
鉄道マニアの方が僕含めて5〜6人。ここで黒田さん自分はマニアではないと言い切り、マニアを畏れる…(笑)。
それから鉄道マニア度チェックがスタート。ものすごい数の設問があり(多分30弱。この時点で黒田さんは充分マニアだと思うんですが…)、僕的には面白かったんですが、鉄道ファンしかわからないので割愛…。
あ、ひとつだけ。
・なんか違うんじゃないか、この時刻表。
これに違和感覚えた人は結構な鉄道好きか近鉄ユーザーなはず。
大阪の2極:B面の最初の曲
4つあるテーマの一つ目はこのテーマでしたが、まずは関東の電車はスタンダライゼーションが進んでいるというお話。
関東と関西の比較
▼常磐線E231系
▼京葉線E233系
▼東急5000系
▼小田急4000系
▼東武60000系
関東はどことなく似たデザインの電車多いですよね。
その一方で関西の私鉄はというと…
▼阪神5001形、阪急5100系、阪神7861形
▼京阪10000系
▼南海7000系
▼近鉄6200系
この個性あふれるラインナップ!(笑)
これは関東では「輸送力」が重視されるのに対して、関西の私鉄は「速達性・快適性」が求められるから。蛍光灯カバー付けてるお金あったら1両でも多く車両を造った方がいいというのが関東の考え方だそうで。
こちらは銀色電車の割合。関東では唯一銀色電車のなかった京急も2007年から無塗装のステンレス車両が入り、もう既に3割に届こうかというところ。
一方で関西の私鉄は50年前からステンレス車を入れてる南海はそりゃ7割あるとして、2006年から銀色電車を入れだした阪神が2割、阪急、京阪、近鉄に至っては銀色電車は皆無!100%塗装車!!こういう比較見たことなかったですけど、差が歴然ですね。
黒田さん「子供が電車を描く時真っ先にグレーのクレヨンがなくなるのは情操教育上いいわけがない。かわいそう。キレる子供が増えているのはステンレスの電車が走っているからじゃないか」と本気で思ってらっしゃるとのこと(笑)。
関東で銀色電車が増えたり標準化が進む理由は、相互乗り入れが活発で相手に合わせて車両造らなければならないから。
一方関西は人口が少なく相互乗り入れが少ないので輸送力も気にせず自社の思い通りに車両が造れる。
しかもそこに競争原理が働くので、いかに自社の電車に乗ってもらうかを考え、快適性や独自性を追求した結果、個性あふれるラインナップになっていると。
また関西は基本的に都市間電車(かつ競争原理も働く)の文化、一方で関東は郊外電車の文化。
唯一京急だけは都市間電車かつ競争原理が働いている(品川ー横浜でJRと競合)ので、速達性と快適性が求められる関西っぽい電車が走っている。
よって個性的な関西鉄道文化は競争原理が働く都市間電車によって生まれたと言えそうです。
なぜ関西の私鉄が個性的なのかが明らかになったところで、次のテーマに。
難波の重要性を示す2つの事実
このトークショー&サイン会の舞台、難波について。
もちろん難波は梅田と双璧をなす大阪のターミナル駅ですが、まずは地図上でもその事実がわかるというお話。
大阪の大動脈、御堂筋。梅田から難波まで片側6車線!その大動脈である御堂筋は基本ずーっとまっすぐですが、始点終点だけがカーブしていて、曲がった先にあるのは阪急梅田駅と南海難波駅。そのことからもこの2つのターミナルがいかに重要かということを物語ると。
さらに、事業者ベースで3社が集まるターミナルは難波しかない。
その成り立ちは1885年に南海の前身阪堺鉄道が乗り入れ。1935年に御堂筋線が難波まで開通するものの、そこからしばらく変化はなく、大阪万博を控えた1970年に近鉄が、2009年に阪神なんば線が乗り入れることにより3社が乗り入れるターミナルが実現した訳です。
難波の重要性がわかったところで難波乗り入れの3社について。
難波からみる南海電車「バロック」
著書にも書かれていますが、南海はとにかく「バロック」(=2極が極端に違うこと)。
▼ゴージャス過ぎるターミナル駅「難波」
▼寂れたターミナル駅「汐見橋」。この対比、まさにバロック。
▼高野線で快速急行運用に入る2000系
▼高野線の混雑と橋本以南に新車が入って行き場を失い、南海本線で普通車運用に入る2000系。線区も違えば種別も違う。まさにバロック。
▼1993年から導入されている現在の駅名標。もうこのタイプの駅名標が導入されて20年以上が経つわけですが…
▼つい最近までこんな駅名標も残っていました。毛筆体に駅ナンバリングとか!(笑)
これが同時期に並存してたりすることからも南海はバロックだと。
難波からみる近鉄電車「エキゾチシズム」
近鉄は普段乗らない人からするとどこへ連れてかれるのか…(苦笑)。
▼奈良 橿原神宮前 吉野 伊勢 鳥羽 志摩方面との表記がある近鉄京都駅。
▼八尾 河内国分 大和八木 伊勢志摩 名古屋方面との表記がある大阪上本町駅。
▼まだマシなほうですが、分岐駅近くの表記になると順番通りに並んでいるのかもわからない。
四日市以北の駅(近鉄富田駅など)だと「四日市 大阪 神戸 賢島方面」と表記され、もはや五七五だと(笑)。
▼確かに大和西大寺の駅の案内見ててもすごいですね。
どこに連れてかれるんでしょう…(笑)。
日本最大の私鉄なので、通勤型電車の走行距離も長いし、
特急の系統も多彩(名古屋ー大阪=名阪、大阪ー伊勢=阪伊、名古屋ー伊勢=名伊、京都ー伊勢=京伊、大阪ー奈良=阪奈、京都ー奈良=京奈、京都ー橿原=京橿、大阪ー吉野=吉野の8種)、そして車両形式も多様。もう細かすぎてわからん…(苦笑)。
しかも近鉄の形式を紹介する公式サイト「鉄路の名優」には1422系についてこういう記述もあるんだとか。
1422系は昭和62年に1252系として登場しました。(中略)その後の標準軌線通勤車の基本となる車両です。平成2年に車両管理上、1422系となりました。なお、同時期に登場した1220系は制御器メーカーが異なる点を除いて1422系と同一仕様で製造しています。
黒田さん曰く「その後の基本となる形式なのに1422系でいいのか?なんでキリ番じゃないのか?1252系が1422系になったところで車両が管理しやすくなるんだろうか?なんでメーカーの違いだけで形式変えるのか私にはさっぱりわかりません」と。確かに(笑)。
難波からみる阪神電車「スピード」
知ってる人からすると「阪神=スピード」は「?」ですよね。
ご覧の通り最高速度も所要時間も表定速度も一番遅い。でも駅の数が多くサッと乗れる。
また阪神は240m間隔と他の鉄道会社に比べて短い間隔で信号があるので、列車間の距離を詰めることができ、速く走れる。
そして高加速高減速な普通車専用車両「ジェットカー」を持ち、特急や急行を邪魔しないように素早く待避駅に逃げ込む。
(ちなみに黒田さん、加速時のジェットカーのつり革が何度傾くかを数えてました。本当すげぇなこの人…笑)
路面電車規格で開業したものの早くから線路改良やスピードアップを行い、現在でも総合的に駅から目的地まで早く到達できるようにしていて、なので阪神は「スピード」に拘った鉄道会社であると。
関西私鉄の魅力が存分に詰まった一冊
トークショーの中では難波に関わる3私鉄のみでしたが、この文量…(これでも端折ってます…苦笑)。著書には残りの阪急、京阪についても書かれてますし、それぞれの楽しみ方なんかも載ってるので、実践してみるのもいいかもしれません。
僕は阪神電車ユーザーですが、阪神電車ってあんまりいいイメージ持たれてないんですよね…(昼間っから…いや朝からワンカップ呑んでるおっさんが乗ってるみたいな…。まぁ確かに乗ってるんですけど…笑)。
でも、この本読んで初めて阪神電車ユーザーであることに誇りを持てたような気がします。
鉄道ファンにもそうでない人(特にビーバップハイヒールの鉄道特集好きな人!笑)にも必帯の一冊です!ぜひ!
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