昨今テレワーク需要の高まりもあり、JR東日本では新幹線や特急成田エクスプレスなどをワークスペースにする実証実験が行われています。
また東海道・山陽新幹線でも2021年10月から「のぞみ」の7号車がテレワーク用の車両「S Work車両」の試行を開始。
最新のN700Sでは7・8号車に通信容量2倍のWi-Fi「S Wi-Fi for Biz」を完備、7・8号車間にある喫煙ルームはビジネスルームに改装されるとのこと。駅の待合室にもワークブースが整備され、テレワーク環境が拡充されます。
一方、都市部のJRや私鉄では各駅・主要駅にWi-Fiが整備され、会社によってはコンセントや車内Wi-Fi完備の車両もあり、駅や車内でのテレワークが可能です。
関西2府1県と東海2県にまたがるネットワークを誇る近畿日本鉄道(以下近鉄)には、数多くの特急列車が走っています。
これらの特急列車はワークスペースとして使えるのか検証してみました。
ワークスペースに必要なのは電源と通信環境
まず環境の大前提として、電源と通信環境が挙げられます。
列車内にコンセントとWi-Fiもしくは携帯電話の電波が届くことがワークスペースとして必要な環境と言えます。
近鉄特急で全席にコンセントがあってWi-Fi完備されているのは「しまかぜ」と「ひのとり」と一部の「アーバンライナー」だけ
さて近鉄特急ですが、コンセントとWi-Fiの両方が備えられている車両は、大阪難波・京都・近鉄名古屋と賢島を結ぶ観光特急「しまかぜ」と、大阪難波と近鉄名古屋を結ぶ「ひのとり」そして2021年秋ごろから設置が始まった一部の「アーバンライナー」です。
「ひのとり」は名阪間を結びビジネス需要もあるため、全席にコンセントが完備されています。
「しまかぜ」は観光特急と冠してるくらいなので、仕事したくなくなる仕様(苦笑)ですが、こちらも全席にコンセントが完備され、環境としては可能です。
Wi-Fiは暗号化なしの「Kintetsu Railway Free Wi-Fi」「Wi2」が基本
Wi-Fiは暗号化なしの「Kintetsu Railway Free Wi-Fi」と「Wi2」が使えます。
暗号化ありのものでは「Wi2eap」「Wi2_club」が飛んでいるので、「ギガぞう」や「au Wi-Fiアクセス」を契約していれば利用が可能です。
さらに「ギガぞう」や「au Wi-Fiアクセス」は、主要駅のWi-Fiも利用できるので便利ですよ。
「au Wi-Fiアクセス」は月額無料ですが、スマホかタブレットどちらか1台しか接続できません。
月額548円の「auスマートパスプレミアム」に入ることで、PCなどさらに1台接続可能でVPN保護機能がついたセキュリティモードもありますが、月額500円で5台まで使えてVPN保護機能が付いている「ギガぞう」のスタンダードプランが個人的にはおすすめです。
コンセントがあるのは「アーバンライナー」のデラックスシート・「伊勢志摩ライナー」・「青の交響曲」・「さくらライナー」と一部の特急車両
Wi-Fiはないもののコンセントがあるのは「アーバンライナー」のデラックスシート、「伊勢志摩ライナー」、「青の交響曲」、「さくらライナー」と一部の特急車両(22000系・22600系・16400系・16600系)です。
「アーバンライナー」「伊勢志摩ライナー」「さくらライナー」のデラックスシート、22000系は全席、それ以外は横並び2席に対して1個の配置となります。
「青の交響曲」は壁面座席に1個ずつ、「伊勢志摩ライナー」のサロン席は1ボックスにつき2個の配置となっています。
なお「アーバンライナー」のレギュラーシートにコンセントはありませんが、2021年秋ごろからWi-Fiとともに順次設置されています。(2席に対して1個)
コンセントのある列車は「近鉄アプリ」で探せる
鉄道ファンならまだしも、自分が乗る列車にコンセントが付いているかどうか調べるのは至難の業です。
でもスマートフォンの「近鉄アプリ」を使えば、コンセント付きの列車をかんたんに探すことができますよ。
もちろんWi-Fiの有無でも検索できますが、前述のとおりWi-Fiは「しまかぜ」と「ひのとり」にしかついておらず、選べる列車がかなり減るのであまり役に立ちません。
近鉄特急のテーブルとシート
ワークスペースに必要なのは電源と通信環境とは言いましたが、テーブルとシートも重要ですよね。
PC利用に適したテーブルがあるのは、「しまかぜ」「ひのとり」「青の交響曲」
「しまかぜ」のプレミアムシートと「ひのとり」レギュラーシート、「青の交響曲」のデラックスシートのテーブルは、前のシートの背面に収納されています。「しまかぜ」と「ひのとり」のテーブルはスライドして前に出てくるタイプでPC利用にも適していますよ。
「ひのとり」のプレミアムシートには、肘掛け部分から出すタイプのテーブルが備え付けられています。シートの肘掛け部分をまたぐ形でテーブルがあるので、PCまでの距離が充分にとれず私は少し作業しづらかったです。
「しまかぜ」のプレミアムシートにも同じテーブルがあり、両方のテーブルが使えますよ。
「しまかぜ」「ひのとり」「青の交響曲」以外のテーブルは、奥行きが狭めで13インチのPCは少しはみだしてしまうくらいの大きさです。スライドもしないので、少し作業がしにくいです。
「アーバンライナー」「伊勢志摩ライナー」はテーブルが小さいので避ける
「アーバンライナー」「伊勢志摩ライナー」はプレミアムシート、レギュラーシートともにテーブルが小さめで、PC作業には向きません。
とくに「アーバンライナー」レギュラーシートのテーブルは、肘掛け部分に収納されていてかなり小さく、PCはおろかお弁当も置けるかどうか…。できるだけ他の列車を利用しましょう。
なお「伊勢志摩ライナー」の場合、サロン席に大きい固定テーブルがあります。ただし2名以上での利用になるのでご注意ください。
シート
シートはどれも座り心地がいいです。とくに「ひのとり」「しまかぜ」は気持ちよすぎて寝てしまいそうになります。いや寝ました…(苦笑)。気をつけましょう。
近鉄沿線における携帯電話の電波状況
近鉄特急の車内Wi-Fiは「しまかぜ」と「ひのとり」にしかなく、それ以外の列車では携帯電話の電波が通信のカギを握ります。
近鉄沿線は大阪難波ー大阪上本町・近鉄奈良・近鉄名古屋の地下トンネルをはじめ、山間部にも多くのトンネルがあり、これらの区間での電波状況が気になるところです。
ところが、近鉄のホームページにはこれら遮蔽区間での携帯電話の通信状況が掲載されています。あらかじめ確認しておくといいですよ。
ちなみに2022年1月現在でキャリアごとに使えない区間を列挙すると以下のとおりです。
- ドコモ(ahamo):大阪線・榛原ー室生口大野、伊賀上津ー西青山の一部、鳥羽線・宇治山田ー五十鈴川、志摩線・穴川ー志摩横山、吉野線・福神ー大阿太、六田ー大和上市
- au(UQmobile):大阪線・伊賀上津ー西青山の一部、鳥羽線・宇治山田ー五十鈴川、朝熊ー池の浦、志摩線・白木ー五知、穴川ー志摩横山、吉野線・福神ー大阿太、六田ー大和上市
- ソフトバンク(LINEMO):大阪線・伊賀上津ー西青山の一部、鳥羽線・宇治山田ー五十鈴川、志摩線・穴川ー志摩横山、吉野線・福神ー大阿太、六田ー大和上市
- 楽天モバイル:奈良線・石切ー生駒、東生駒ー富雄、新大宮ー近鉄奈良、けいはんな線・長田ー吉田、新石切ー学研奈良登美ヶ丘、大阪線・大阪教育大前ー関屋、大和朝倉ー三本松、伊賀上津ー伊勢石橋、鳥羽線・宇治山田ー五十鈴川、朝熊ー池の浦、志摩線・白木ー五知、穴川ー志摩横山、吉野線・福神ー大阿太、六田ー大和上市
こうして見るとソフトバンクが一番使えそうですね。楽天モバイルは急速にエリア拡大が行われていますが、近鉄のトンネル区間で使えるのは難波線・大阪線の大阪難波ー鶴橋だけです。
しかし上記はあくまでトンネル区間に限った話で、大阪線や志摩線の山間部では屋外でもエリア外の可能性があるので注意しましょう。
車内での通話・会議は難しい
近鉄特急では座席での携帯電話による通話は認められておらず、通話や会議には向きません。
「ひのとり」に関してはデッキにベンチスペースが用意されており、コンセントやテーブルはありませんが座っての作業が可能です。
ただし客室と比べて静音性が劣るので、やはり難しいと言わざるを得ません。
また「青の交響曲」にも「ひのとり」のベンチスペースに似た「ライブラリー」がありますが、ここはあくまで奈良に関する書物を読むためのスペースなので、仕事での利用は避けましょう。
さらに「しまかぜ」には和洋の個室があり、通話も会議も気にせずにできますが、大和八木・近鉄四日市ー伊勢市を含めた区間を3名以上で利用することが条件となるため、こちらも難しいでしょう。
車内販売は「しまかぜ」「青の交響曲」以外はなし
車内で仕事をしていると少し一息入れたいなーと思うことありますよね。
そんなときに車内で何か買えたらいいんですが、残念ながら「しまかぜ」と「青の交響曲」以外に車内販売はありません。
「しまかぜ」にはカフェ車両があり、ドリンクはもちろんカレーやピラフなどの食事もできます。販売窓口もあってこちらではお弁当やおみやげも買えますよ。
「青の交響曲」にもカフェ車両があり、奈良や吉野にちなんだドリンクやスイーツが楽しめますよ。
それぞれいい気分転換になるのでおすすめですよ。
「ひのとり」にはカフェスポットがある
「ひのとり」には車内販売はありませんが、大阪難波・近鉄名古屋双方の先頭車両のデッキにカフェスポットがあります。
ホットコーヒーに紅茶、軽食などが用意されていますよ。
また「アーバンライナー」・「伊勢志摩ライナー」・22600系・22000系には飲料の自動販売機が設置されています。
ただそれぞれ売り切れる場合もあるので、あらかじめ購入してから乗車すると良いですよ。
近鉄特急でのリモートワークは列車を選べば快適
大阪・奈良・京都・名古屋・伊勢志摩を結ぶ近鉄特急がワークスペースになりうるのかを検証してきましたが、会議用途がなく列車を選べば快適にできるということがわかりました。
とくに「しまかぜ」「ひのとり」がベストですが、お伝えしたとおりシートが良すぎて寝てしまう可能性があり、私は2回ほどやってしまっています(笑)。
「しまかぜ」「ひのとり」は所要時間が2時間前後ということもあり、集中して作業をするのにもいい環境です。
移動時間を上手に活用して、仕事の幅を広げていきましょう。
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